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~デザーナーズ伝陶工房「秀峰」について~

志野・織部など、美濃の伝統・思想・技術を受け継ぐ手づくり陶工房、それが私たち「秀峰」です。土から製品に至る全てのプロセスに対応する職人デザイナーたちが集結しています。
 500年前の先人達がしたように、私たちは「今」を生きる「手」を頼りに”今日の人々”の生活のうるおいを想いながら、日々新たな作業に取り組んでいます。

こんな秀峰ですが、もう少し具体的に秀峰について皆様に知っていただきたいので、今私たちが取組をスタートさせた「カスタムメイド」にまつわるお話と、秀峰窯代表・中垣連次が器づくりに対して、感じていることを紹介したいと思います。

秀峰カスタムメイド物語

秀峰へ持ち込まれる数々の依頼。時にはとても困難な依頼をお受けしますが、持前のチャレンジ精神と技術を結集して、お客様に喜んでいただける商品を創り上げております。
ここでは現在進めています、「カスタムメイド」を始めるきっかけとなったお話を紹介いたします。

その1.「厄介な注文」

 私たち秀峰は、織部や志野の伝統を受け継ぐ手づくりの陶器メーカーです。伝統の様式をなんとか現代のライフスタイルの中で生き生きさせたいと、いろいろ商品をつくってきました。
手づくりで、土から製品まで何でも対応できる職人スタッフが揃っているせいか(ともすると時代遅れなシステムと云われますが、「手」を頼りに進めるやり方こそ私たちならではと自負しています)、他社ではなかなか受けにくい注文が時々やってくるのです。

IMG_2791.jpgしのぎ陶板(乾燥中・辺41cm)こんな話がありました。ある日、今までお取引の無い問屋さんから突然の電話です。
「一辺41cmで厚さ1.5cmの陶板が12枚出来ないか?」
そのような大きさの陶板を焼き上げるのはとても難しくて厄介な仕事です。その上、忙しい時期とも重なっていました。そんなことで返事を渋っていたところ、数日後その問屋さんがお客様を連れてやって来てしまったのです。
 問屋さん:「織部は秀峰さんしかいないし、それにこんなに大きな陶板をつくれるのも秀峰さんしかいないし」(ちょっと嬉しい物言いです。でも、このおだてに乗ると厄介で後で大変なことになっちゃうぞ)
お客様:「新築する家の玄関と外壁にどうしても飾りたい。織部が好きで好きで、それで遠方よりお願いに来ました」(もう!そんなに言われると引き受けざるを得ないじゃないですか)
 というわけで、その日から予想通りの困難な仕事が始まりました。土の吟味・成形・試作・乾燥・焼き上げ・・・・遂に最終完成品が窯から焼きあがってきた時は、正直ほっとしたものでした。そして、お客様の喜ぶ声を耳にした時には、それがさらに晴れ晴れとした爽やかな気分と、感謝の気持ちへと変わっていくのがわかりました。


IMG_2795.psd織部草紋陶板
 技術の向上・データの蓄積・得がたい経験・・・・・「厄介な注文」こそステップアップへの必需品。チャレンジというのは、こういうことではないですか。カスタムオーダーはどんどん受けるべし。と、晴れ晴れとした胸の中にモクモクとカスタムオーダーへの意欲が湧き上がるのを覚えたものでした。

 これが私たち秀峰窯「カスタムメイド物語」の本格化する始まりでした。
以来、ご注文いただくお客様を主役に「秀峰カスタムメイド物語」の頁数は増え続けています。
皆様も私たちのこの物語の中へ、主役としてご参加なさいませんか。
秀峰スタッフ一同、チャレンジ精神と感謝の気持ちでお待ちしております。

窯元のひとりごと  

 秀峰代表中垣連次です。私が器づくりに取り組んで30年以上の歳月がたちました。ここでは日頃感じていることを、作り手の目線でお話していきたいと思います。
(8話構成・隔週連載になります)


・人は私たちを時代遅れな因果な商売だと言うかもしれないが、私たちは今日の人々の生活を潤いのあるものにするには、先人の知恵より学ぶことだと確信している。
・私たちは時代遅れなことをしているかもしれないが、私たちの感覚・感情は非常に現代的を目指している。
・私たちは500年前の先人がしていたように、私たちの「手」を頼りに作業に取り掛かる。
・私たちは人々の為に、辛い作業を厭わない。時代遅れといわれても。

その1.「料理と食器」

IMG_1981.jpg掛分反大茶碗、織部長々角台皿 織部蓋物丸碗、カブ絵3寸小皿  料理って、一体どういうことでしょうか?
料理とは、言うまでもなく、食物を美味しく食べられるようにする行為(仕事)です。
器とは、その料理を盛るものです。
料理なくして食器は成立しなく、その逆もそうですね。
食器の仕事は、料理をより美味しくすることです。
日本最初の器は、 「木の葉」と言われています。
古代人も、白分たちで手に入れた木の実や動物の肉を神に捧げたり、自分たちが食べる時に「木の葉」を使っていたと思われます。
木の実や動物の肉を「木の葉」に載せていたことが、料理と食器の関係を物語っています。
料理と食器とは相離れることのできない、いわば夫婦の様な関係です。料理を食べて美味しいとか、不味いとかだけではなく、その料理やその状況に合った器を選べば、その料理やその場の雰囲気は格別なものとなります。
 秀峰も器に限らず、器を通してのライフスタイルをみなさんに提案していきたいなぁ。

その2.「陶器は凍る 」

IMG_2790.jpg製作途中の素地を保管する室(ムロ)。冬場は夜の凍結防止になります。  古くから窯場は粘土がとれる山間部にあります。
冬の夜明け前が一番温度が冷え込みます。その時間帯が一番ヤバイ時です。
今では大分少なくなりましたが、先日作った器が凍ることがあります。
作ったばかりだと粘土には水分がかなり入っています。それが凍るのです。
表面の小滴が凍り、まるで霜が降った様になります。
ひどい時には、冷凍室の食品みたいになります。
そうなると、もう使いモノにはなりません。
手間をかけ一生懸命作った器が、一晩でダメになることも。
冬になると気掛かりな事が一つ増えます。

その3.「作り手と使い手」

IMG_1496.JPG 作り手としては、器自体でlOOパーセントの完成を目指して作ってしまいます。 そこでよく使い手(プロの料理人)と言い争いになってしまいます。
料理人曰く「器白体で100パーセントの器は必要でない。そんな器は使い物にならない。」と。
 作り手としては、器を作る時、どうしても器の内側に絵がないと寂しいと思い、無用な絵を描いたり、ヘタな装飾をしてします。
要するに装飾過多にしてしまうのです。
「器だけで100パーセントではなく、料理を盛って100パーセントになる器を作ってほしい。下手な装飾はやらないでほしい。それとこの器カウンターで使うのか?それとも座敷?」
カウンターと座敷では器に対しての目線が違うそうです。
 作り手だけの意見だけでは十分ではなく、使い手のこの様な意見を十分に
取り入れて、器を作っていきたいと思います。

その4.「娘の批評」

IMG_1995.jpg織部貼り合せ深皿 ある日曜日の夕方、娘と女房が夕食にカレーを作っていました。
カレーが完成した頃を見計らって、窯場から試作で作ったカレー皿3種類を持ってきて、これで食べたらと提案してみました。
娘がその中の1枚を選び、カレーを試食してくれました。
食べ具合はどう?と聞くと、 「食べにくい!」と冷たい一言で終わってしまいました。
女房は気を遣ってくれて、 「私の皿は、まあまあじゃないの。」と…。
その2週間後、またカレーを作っていたので、前回のカレー皿を改良した4種類を窯場より持ってきました。
娘は、 「私コレにする」と4枚の内1枚を選び、他の1枚にもサラダを盛ってくれました。
感想を聞くと、 「まあまあ良い。」とのことでした。
娘は私にとって、 「厳しい消費者」です。
娘が、 「まあまあ良い。」と言ってくれたカレー皿を少し改良して、今度の展示会に出品します。

その5.「何を食べるかより、誰と食べるか」

IMG_0846.jpg若い頃は、京都の料理店が良いとか、肉は霜降りの松阪肉が良いとか、色々今で言うブランドにこだわっていました。
まさに「何を」「どこで」食べるにこだわっていました。
年齢とともにこのこだわりが、「誰と食べるか」に変化しています。
仕事関係で、有名店で食事をするのも美味しいですが、気心の知れた仲間と街の居酒屋で一杯とか、家族で母の作った虫食いだらけの大根やホウレ
ン草を入れた鍋等に、「安らぎ」「ありがたさ」を感じるようになりました。
勿論一流のお店も好きですし、色々勉強になります。
それに年に数回は、非日常を体験することは意義があることだと思います。
でも、妻が冷蔵庫に入っているモノで作ってくれるチャーハンとか、母が作るちょっと味が濃い煮物の味が、一段と深く感じれるようになりました。
その様な家族団らんの食卓に、うちの食器がさり気なく使ってあるなんてうれしいですね。

その6.「作り手と買い手」

IMG_0953.jpg作り手と買い手の意識の擦れ違いに、いつも戸惑ってしまいます。
まあ、それは単に作り手が買い手(お客様)の気持ちを汲み取っていないだけですが …。
お客様に善かれと思い、日々器を作っていますが、結果が出る確率は数%
です。
いつも試行錯誤の連続 …。
両者の間には、深い谷があるようです。
この深い谷を埋めるには、作り手の意識の持ち方を変化させるのと、日々の努力しかありませんね。
お客様に手に取っていただける器を作るのが、窯元の使命です。

その7.「急いでも愛情」

016.jpg現代は、色とりどりな惣菜や美味しそうな寿司、サンドウィッチ等が、デパ地下やスーパーに所狭しと並んでいます。
私や家族も時々愛用させていただいています。
仕事等で忙しくて時間がない時とか、家で作るとかなり手間が掛かるとか、そんな場合は大変ありがたいですね。
それに家で作るよりも美味しかったりして。
でもここで、その惣菜等をもう一味美味しくする方法があります。
簡単なことです。それは自分の気に入った器に盛り付ける事です。
プラスチックのトレーのまま、食卓に出すのだけはしないでください。
そのままだと味気ないですね。
取って置きの器、デパートで何回も迷って買った器に盛り付けてください。
食卓の雰囲気も数段良くなります。
私の大学生の息子も惣菜や寿司を買ってきては、食器棚を探して色々と盛
り付けています。

その8.「仕事は楽しく」

IMG_1359.JPG
仕事は、「いつも楽しく」を心掛けています。
人間の感情はいつも一定ではなく、いつも楽しくとは行かない場合も多々
ありますが、早く気持ちを切り替えられるようにしていきます。
ギスギスした仕事場からは、どうしてもギスギス感が商品に乗り移ります。
楽しい仕事場からは、その楽しさが商品に乗り移り、パワーを発揮してお
客様を引き付けるようです。
ギスギスした会社で作った商品と、楽しい会社で作った商品では、そのパ
ワーが違います。
器づくりは、いつも楽しく作りたいものです。